2006年08月05日

(-.-) ちょっと良いお話3 (-.-)

(-.-) ちょっと良いお話3 (-.-)

ちょっと良いお話ですぅ。

写真は、何故か2本のチューリップ。

夏の終わりに


 妙にがらんとした病室に妻は横たわっていた。
 もともと体が弱く、入退院を繰り返していた。

 昨日部屋で意識を失い、救急車で運ばれた。
 私の中で、今回は助からないかもしれないという、不謹慎な確信があった。
 妻が意識を取り戻したとき、私は側の椅子に腰掛け、妻の顔を見ていた。
 しばらく天井を見た後、妻はゆっくりと顔をこちらに向け、口を開いた。

 「今回は、だめかもね。」

  「そんなことはないよ、大丈夫、すぐに帰れるさ。」

 自分で信じていないことが、何のためらいも無く口から出たことに、私自身が驚いた。

 「炊飯器の使い方、解る?」唐突に、妻は私に向かって問い掛けた。
 「ワイシャツにアイロン掛けるときは、首周りだけじゃダメだよ。」
 「ビール,飲みすぎないでね。」
 「あの、ワイン、せめて1年は飲むの我慢してね。」
 「他の誰かを好きになるまで、指輪は外さないで欲しいなぁ。」

 妻はゆっくりと、不思議なほどはっきりと、私に向かってつぶやいた。
 私は、身じろぎもせず、妻を見つめていた。
 黙って私の顔を見つめていた妻が、一瞬目を逸らした後、口を開いた。

 「ほな、またね。」

 付き合っていた当時、毎晩の電話を切る直前に私が告げていた言葉をつぶやくと、
  妻は静かに目を閉じた。
 季節は夏から秋に変わろうとしていた。

 私達の住んでいるアパートではあまりにも手狭であるため、
  近所にある妻の実家で葬儀は行われた。
 忙しさのせいと思いたかったが、不思議と涙が出ず、どこか他人事のような気が常にしていた。

 すっかり疲れ果て、久しぶりにアパートに帰った。
 暗い部屋の中で冷蔵庫までたどり着き、ドアを空けると、部屋の中に明りが広がった。

 ドアポケットにある缶ビールを手に取り、プルタブを開け、飲み干した。
 もう一缶手に取ろうと冷蔵庫の中を除きこむと、メモ用紙を見つけた。

 「飲みすぎ注意!」妻の丸っこい癖のある字でそう書いてあった。
 もしやと思い、冷凍庫を開けてみると、「たまには自分で作りましょう!」
 タンスを開ければ、「きちんと畳む事!」

 部屋中のいたるところから、妻の書いたメモが見つかった。
 メモ用紙の束を前にしながら酒を飲み、何時の間にか寝てしまった。

 何事も無く朝が来て、不精髭をさすりながら、いつもの様にコーヒーを沸かした。
 少し濃い目のコーヒーを左手に持ったカップに注いだ。
 右手のポットには、もう一杯分のコーヒーが残っていた。

 ポットを見つめながら、私は、初めて涙を流した。




読みながら、涙が流れていましたぁ。

今日は、花火だねぇ~・・・ でも行かなぃ。(-.-)


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Posted by たえちゃん at 18:37│Comments(0)ちょっと良いお話
 
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