2006年08月10日

(-.-) ちょっと良いお話8 (-.-)

(-.-) ちょっと良いお話8 (-.-)

ちょっと良いお話ですぅ。

でもちょっと今日のお話は、辛いですぅ。

読んで、思いっきり、泣きました。

それでも、良かったら・・・(読んでね。)

坂と自転車と兄ちゃん


 「この坂を、一回も足つかずに上りきったら、兄ちゃんがおる」 
 少年はそう信じて自転車をこぐ。

 立ちこぎ。
 右足に全体重を乗せペダルを押し切った後、 次は左足。
 左足はきき足ではないから辛い。
 しかし、こらえて、右足へつなぐ。
 なんか単パンがきつい気がする。
 パンツがしりの間に食い込んで、めっちゃ気持ち悪い。
 ももの前側が痛くなってきた。

 あん時の兄ちゃんは痛かったんかいな。
 気を失っとるって父ちゃんが言うとった。
 痛くないはずって、言うとった。
 確かに、ずっと眠っとるような顔しとった。

 兄ちゃんはいつも、この坂を一息で上りよった。
 オイは途中から自転車押さんと上りきれん。 
 先に上りきった兄ちゃんは、坂の途中からじゃ姿が見えん。
 てっぺんで地面に座っとるから。 
 座ってニヤニヤして空を見とる。
 そん顔が少しムカつく。

 風が少年の肌をなで、かすかに汗がひいていく。
 そしてすぐに、また汗が出る。
 いつもここが踏ん張りどころやった。
 いつもより足は動く気がする。
 もうちょっとで上れるぞ。

 兄ちゃんは何にぶつかったとやろ。
 トラックかいな。

 葬式で母ちゃんはひどう泣きよった。
 父ちゃんは夜中に車の中で泣きよった。

 でもオイは泣かんかった。
 兄ちゃん死んだって、分かるようで分からん。
 もう会えん、もう会えんて、父ちゃんも母ちゃんも、じいちゃんも、
  みんなして言うから、そんな気もするけど、本当はよく分からん。
 泣く気がせん。
 オイもしばらくはぼーっとしとったけど、この坂思い出して、来た。

 兄ちゃんが死んでから初めて、来た。

 少年の自転車のハンドルが揺れた。
 なんとかバランスは保ったが、スピードは遅く、今にも倒れそうだ。
 両手に力を込めて、ハンドルを引き上げる。
 危なかったぞ。
 今んとは危なかったぞ。
 せっかくここまで来た。
 記録はのばしたけど、今日は一気に成功させる。
 いつもあきらめとった場所はこえた。

 今日はあきらめん。
 上りきる。
 兄ちゃんが、おる。
 こっからじゃ見えん。
 座っとるから。
 空を見とる。
 ニヤニヤして空を見とる。
 あと少し。
 あと五こぎで行ける。
 四。 三・・ 二。 一。 てっぺん。 

 初めて上りきったぞ。
 オイにもできるぞ、兄ちゃん。
 兄ちゃん。

 兄ちゃんは、 おらん。
 何でや。
 座っとらん。
 周りにも、 おらん。
 何でや。
 死んだからか。

 少年は座った。
 少年は兄のまねをして空を見た。
 ニヤニヤしてみたが、 うまくニヤけることが 出来ない。
 口がへの字に歪む。

 兄ちゃん、おらんのか。
 兄ちゃん、会えんのか。
 兄ちゃんは、死んだ。

 少年の汗と涙は風に吹かれ、蒸発し、汗だけが乾ききった。




読んで辛かった方、辛いお話、読ませてごめんねぇ~。(-.-)


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Posted by たえちゃん at 22:44│Comments(0)ちょっと良いお話
 
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